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岡山地方裁判所津山支部 事件番号不詳 判決

主文

被告は原告に対し金弐千円と引換に別紙目録記載の農地について所有権移転登記手続をなせ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めその請求の原因として

原告は昭和二十年九月四日被告からその所有にかかる別紙目録記載の農地(以下本件農地という)を右地上の立稲と共に代金一万円で買受け、同日内金一千円を被告に支払うと共に引渡を受けて耕作を始め、同年十一月二十日に至つて金七千円を支払い、更に同年十二月二十四日被告に対し残金二千円を弁済のため提供した処、被告はその受領を拒否し、右売買契約を解除する旨申出るので残代金二千円と引換に本件農地の所有権移転登記手続を求めると述べ、

被告の本件売買契約が無効であるとの抗弁に対し

一、統制価格違反の点

本件農地の地租法による賃貸価格が四十九円九十三銭であること及び本件売買契約の代金が統制価格に違反していることは認めるが、本件売買は農地のみの取引ではないから被告の主張する超過額は正当でなく、超過額が幾何であるか明確でない。

しかして統制価格に違反する売買は全部無効となるものではなく代金額の超過部分のみが無効となるに過ぎない。何となれば価格統制は適正な価格による物資の需給を確保することを目的とし、全部無効とすればこの目的に反するからである。又農地の価格統制は昭和二十七年十月二十一日農地調整法の廃止と共に解消したのであつて被告が今尚統制価格違反を主張して売主の義務を拒絶することは民法第一条第二項に反して許されない。

二、錯誤ありとの点

被告は本件売買当時居村吉岡村の助役であり価格統制については村民の師表であつたもので、斯様な点に認識の齟齬があつたということはあり得ない。又仮にあつたとしても被告に重大な過失がある場合であるから無効を主張できない。

更に原告は代金の内八千円は既に被告に支払済であつて之は取戻すことができないものであるから被告は錯誤を主張することができない。

三、知事の許可のない点

本件売買は昭和二十一年十二月以前の売買であるから知事の許可は不要である。

と陳述した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め答弁として

原告主張事実中原被告間に原告主張の如き売買契約(但し日時は九月上旬であつてその目的物は本件農地のみであつてその地上の立稲は含まれていない)が締結され、内八千円が支払われ、残金二千円の弁済提供があつたが被告が受領を拒絶していることは認めるが、その他は否認する。

しかしながら本件売買は次の理由により無効である。

一、統制価格に違反しているから民法第九十条により全部無効である。

本件農地の地租法による賃貸価格は四十九円九十三銭であるから統制価格は千五百四十七円八十三銭となり八千四百五十二円十七銭だけ超過している。

二、若し統制価格違反の取引が超過額の部分のみ無効とすれば要素の錯誤があり無効である。

右の如く一部無効に過ぎないとすれば代金は僅かに千五百四十七円八十三銭に過ぎず被告が斯様な少額の代金で売買契約を締結しないことは明白である。

三、知事の許可がないから無効である。

本件は農地の売買であるからその所有権譲渡については県知事の許可を必要とするに拘わらず本件売買契約はその手続が履行されていない。

従つて原告の本訴請求は失当な次第である。と述べた。

(立証省略)

理由

昭和二十年九月四日被告が原告に対し本件農地(立稲を含むか否かは除く)を代金一万円で売渡したことは当事者間争いのないところである。

そこで右売買の効力について争いがあるのでこの点について考察することとする。

一、統制価格違反となるか。(当事者間において統制違反の点争いないのであるがこれは法律の解釈であるから裁判所を拘束しないものである。)

当時は臨時農地価格統制令施行中であつたから農地の売買については地方長官の許可を受けた場合を除き統制価格を超えて売買契約をすることはできなかつたものである(第三条)が同令は昭和二十年法律第六十四号(第一次改正農地調整法)によつて廃止せられ同時に右と同趣旨の価格統制の規定(第六条の二)が設けられ昭和二十一年二月一日から施行された、しかしながら同法第六条の二第三項によれば価格統制に違反した譲渡契約であつても主務大臣が価格算定の基準を定める告示(昭和二十一年一月二十六日農林省告示第十四号)のあつた際当該農地について既に譲受人の権利に関する登記のあつたもの又は農地の引渡の完了したものについては同条第一項の禁止規定の適用がない旨定めてある。

しかして本件農地に関しては証人福田勇次郎の証言によれば本件売買契約締結の頃原告が引渡を受けて昭和二十年の本件農地の稲の収穫は原告の父勇次郎がしていることが認められ、右認定に反する被告本人の供述(第一、二回)は信用しない。

以上の次第で本件売買については価格違反の点を云々することは許されないものである。

二、意思表示の要素の錯誤ありとの点。

価格統制に違反しているとの点が前記の如く問題にならないから違反を前提とするこの点に関する被告主張は判断する要がない。

三、売買につき知事の許可がないから効力を生じないか。

本件売買契約当時は臨時農地等管理令が施行中で同令は農地の所有権等の譲渡契約を締結する者に対し地方長官の許可を要求し(第七条の二)ていた処、同令は一、記載と同じく昭和二十年法律第六十四号によつて廃止せられると共に同法は農地の所有権移転については地方長官等の認可をその効力要件としたが耕作の目的に供する場合を除外した(第五、六条)次いで昭和二十一年法律第四十二号(第二次改正農地調整法)は右例外を認めず農地の所有権移転についてはすべて地方長官等の許可を効力発生の要件とした(第四条)が同法附則第二項によつてこの改正規定は同法施行(昭和二十一年十一月二十二日)前に農地を耕作の目的に供するため所有権を取得する契約がなされ且つ当該農地について引渡又は所有権移転登記の完了しているものについては適用されない旨規定している右規定の趣旨は該当の契約については臨時農地等管理令に定めた地方長官の許可を得ない場合も含めて効力を認めたものと解する。

本件売買契約が耕作の目的に供するものであることは前顕福田証人の証言によつて認められる昭和二十年度の稲作以来原告の父たる勇次郎が耕作している事実によつて明白であり且つ引渡時期も前認定の通りであるから(以上の認定に反する被告本人の供述(第一、二)は措信せず乙第二、三号証によつても右認定を覆するには足りない。)無効とは言い得ずこの点に関する被告の主張も採用出来ない。

そうすると本件売買契約には瑕疵がないのであるから、弁済した八千円を除く残代金二千円(この点当事者間に争いがない。もつとも本件売買が立稲を含んだものか農地のみを目的とするかについて争いがあるが何れにしても本件農地の代金は一万円以下であるから結論に相違は来さない。)と引換に被告は原告に対し本件農地の所有権移転登記手続をなす義務があるから、原告の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。(昭和二八年七月一六日岡山地方裁判所津山支部)

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